僕は、キャリア役人であった。しかしそこでの将来を捨て、今はベンチャー企業から ISO9000シリーズ(品質管理の世界標準規格)の認証取得業務を請け負っている。毎日が悪戦苦闘の連続だ。しかし、その一方で、たくさんの新しい発見、気づきがあり、とても刺激的である。
最終的に、僕は感動をくれたある人の下で働くことになるのだが、この手記はそこに至るまでの体験を、役所での人間模様や人生観を織り交ぜつつ綴るものである。 TWISTER〔ツイスター〕
第10回 「コスト概念と組織のナレッジマネジメント」
先日、道路公団、政府系金融機関などの特殊法人改革案が、与党から差戻し
を食らった。マスコミでは「先送り」と言っているが、これは実質的に「先
送り」より悪い結末であると言える。
(理由:中身の無い政府計画案など『審議が不十分』として、簡単に国会で
引っくり返されるから)
公約の『国債の発行高は30兆円』を上限まで使い果たし、歳入増加政案も
(増税案)も否決された現状で、日本国政府が破産状態に陥るのを回避する
ためには、歳出削減に大ナタを振るうしかない・・・はずなのだが、前記の
ような有様だ。
ここで、一つの疑問が生じる。
疑問:行政の世界で、歳出削減が遅々として進まない原因は何か?
答え:彼らの辞書に『コスト削減』という単語がないため
行政という組織では、コスト情報が「組織の知識」として蓄積(データベー
ス化)されていない。ナレッジマネジメント論で語るのならば、『コスト』
に関係するデータや情報が、『形式知』として体系化されていないのだ。そ
れゆえ、公務員、団体職員達は、学校を卒業してから今日まで『コスト削減
』という概念を学ぶ機会を得られず、彼らの辞書に『コスト削減』という単
語を書き加えることができないままであるのだ。
では、一般企業では『コスト削減』のナレッジが官公庁より優れているか?
残念ながら、答えはノーだ。システムの完成度で見るならば、役所のナレッ
ジマネジメントシステムよりも、優れたマネジメントシステムを機能させて
いるのは、わずが一握りの企業だけである。多くの一般企業では、コストに
関するデータや情報は存在しても、それらがシステムとして体系化されてお
らず、ナレッジマネジメントが機能していないからだ。
先行き不透明な時代において、生き残るための戦略的経営管理は、ナレッジ
マネジメントシステムを構築し、効果的に機能するよう、継続的に改善させ
ることだ。そのための第1歩は、記録を体系的に取ることである。記録を取
り、管理をすることは、最終的に勝敗まで分けることになる。
しかし、如何に優秀なマネジメントシステムを構築しても、形式知とすべき
ナレッジ(情報・データ)の選択を誤っていれば、マネジメントシステムは
組織の強化どころか、財政を圧迫する障害物になるだけである。
世界的に"小さい政府"が進展する中、日本政府だけが組織のスリム化から逃
れることはできない。しかし、政治家達が自らの手で改革を断行できないの
であれば、外圧に頼るしかない。
日産自動車が、「コスト・カッター」と異名を持つカルロス・ゴーン氏を、
役員に迎えて、初めて改革を断行できたように、日本政府も閣僚に民間企業
等から、ゴーン氏のような力量を持つ人材達を、大々的に登用し強力な権限
を与えて、行政組織のあらゆる層へ着任させることだ。
僕自身は、これを最優先で成立すべき戦略と考えている。だが、このような
戦略は、与野党を問わず、既存の政治家や官僚達から感情的な反発を招くで
あろうことは容易に推測できる。
日本政府の構造改革は、まだまだ先行き多難のようだ・・・
(2001.7.1)
(第10回終わり)
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